第5章 rival
紅茶を入れてる間に冷静さを取り戻しリビングに戻った。
櫻井はソファーには座らずにカーペットの上に座っていた。
「床じゃなくてソファーに座れよ」
紅茶とクッキーをテーブルに置く
「ここで大丈夫です」
櫻井を上から見ると、襟の広いシャツの胸元に、ピンクの石が見えた。
「それ今日も付けてんだ」
俺の視線を追い、自分の胸元を見ると『あぁ』といった顔つきで、洋服の上から石を握った。
「してない日ないですから…お守りなんで、忘れると落ち着かないんですよね」
「そっか…」
「あの大野さん…あれスケッチブックですよね?」
櫻井が指差すのは、サイドボードの上のテレビの横に置かれたスケッチブック…ヤバいしまい忘れた。
「あ、うん、そうだけど…」
「絵、描くんですか?」
「まぁ、暇な時に…学生時代、美術部だったんだよ…」
「中、見てもいいですか?」
櫻井が手を伸ばそうとするから、慌てて取り上げた。
「いや、これは駄目だ」
「どうしてです?」
「人に見せるような絵じゃないから…」
「え~見てみたいです、大野さんの絵」
櫻井が残念そうな顔をするけど、これだけは見せるわけにいかない。
学生の頃から暇があれば、適当にイラストなんかを描いていたけど、最近頭に浮かぶのは櫻井のことばかり…そうなると、自然と描くのも櫻井になる。
このスケッチブックの中にも、勿論櫻井が描かれている訳で…
こんなの見たら、気持ち悪がられるだけだよな。
「また今度、ちゃんと見せられる絵描くから」
そう言うと、やっと納得してくれたようだ…
「約束ですよ?」
嬉しそうに微笑む櫻井を見て『あ~今の顔描きたい』と思ってしまう俺は、かなりヤバい奴だよな。
「でさ、どうすんの家」
「間取りはやっぱり1LDKいいですね…
ある程度リビングの広さがあると、人を呼びやすいですし。ネット見て少し探してみます」
「慌てて探すと失敗する可能性もあるしな、ゆっくり調べてから借りろよ?」
「はい」