第5章 rival
一通り案内し、最後にリビングに通すと、櫻井は部屋の中をぐるっと見回した。
「凄くシンプルなお部屋ですね?」
「ん、特に拘りとかないしな
物が少なければ、部屋が散らかることもないだろ?」
「大野さん趣味とかないんですか?」
「たまに釣りとか?最近は全くやってないけど」
「釣り?楽しそう…俺やったことないんですよね」
「じゃあ今度連れてってやろうか?」
「ほんとですか?」
社交辞令かと思ったけど、勢いよく話に食いついたから本気なのか?
「いいよ、俺も暫くぶりに行きたいし」
「じゃあ、よろしくお願いします」
嬉しそうに笑って答える様子を見ると、やっぱり本気なんだ…
櫻井と出掛ける予定がまたひとつ増えて、俺も嬉しい。
「飲み物入れてくるから適当に座ってて」
「はい。あ、大野さんこれ…」
櫻井は荷物の中から紙袋を出した。
「家の近所にある焼き菓子屋さんのクッキーなんですけど、小さい頃から食べてて、大好きなんです」
そう言って紙袋を差し出されたが
『大好きなんです』の言葉にドキッとして、櫻井の顔をじっと見続けてしまった…
「大野さん?」
動きの止まったのを不審に思ったのか、首を傾げてじっと俺を見詰める櫻井にまたドキッとしながら、慌てて袋を受け取った。
「あ、ありがと…さっきコーヒー飲んだから紅茶でいいか?」
「なんでも大丈夫です」
ニコッと笑う櫻井が、もはや男心を弄ぶ小悪魔にしか見えない…
「ちょっと待ってて…」
櫻井の視界から早く逃げたくて、急いでキッチンに入ると大きな溜め息をついた。
「はぁ~、俺大丈夫かな…」
今までは外で会ってたけど、こんな密室空間でふたりきり…
こんな状況で俺の理性はいつまで持ってくれるのか…