第5章 rival
ふたり並んでカウンターに座ると水が出された。
「松岡さん。こちら、さっき話した会社の先輩の大野さん」
『松岡さん』と紹介されたその人が頭を下げ
「松岡です。翔がお世話になってます」
なんて言いやがる。
お前は櫻井の身内じゃないだろ…なんでそんな挨拶されなきゃならないんだ。
「大野さん、この前話したでしょ?
松岡さんは、お世話になったバイト先の店長です」
「あ~、あの。
はじめまして、大野です。学生時代、櫻井がお世話になったみたいですね
良い方だったってお聞きしてます」
俺も社会人として、営業スマイルで挨拶してやった。
「それはどうも…
で、注文何にする?翔」
「えっと…大野さんは何にします?」
「店長おすすめのコーヒーお願いします」
「じゃあ、俺も同じ物で」
「ありがとうございます…」
そう言うと、松岡さんはコーヒー豆を挽き始めた。
「豆から挽くんですね?」
櫻井が、興味深げにカウンターの中を覗いた。
「当たり前だろ?コーヒーに拘った店がやりたかったんだから」
「いつから考えてたんですか?お店出そうって」
「お前が辞める時にはほぼ決まってたよ
この場所も建物も内装も…あとはお前だけだったんだけどな」
「すみません…就職決まってたんで」
櫻井が申し訳なさそうに頭を下げる。
「そういうことじゃないよ」
松岡さんが苦笑した。
「え?」
「やっぱりお前には伝わってなかったかぁ…」
「なにがですか?」
「ん~、また今度な…」
そう言って挽いた豆にお湯を落とし始めた。
「いい薫り~」
「だろ?俺の一番の自信作だ」
松岡さんは自信に満ち溢れた顔をする。
自分の仕事に誇りを持ってる…櫻井が仕事が出来るって言ってたのも分かる。
「どうぞ…」
淹れ終わったコーヒーが出された。
「「いただきます」」
一口飲むと
「旨い…」
思わず声が漏れた…
あんだけ自信があるだけあって確かに旨い。
「ありがとうございます」
松岡さんが嬉しそうに笑った。