第5章 rival
「ちょっとその辺ウロウロしてみる?結構こじゃれた店とかあるし」
「はい、見てみたいです」
「最近近くに喫茶店が出来たらしいんだけど、まだ行ったことなくて
コーヒーが凄く旨いって評判なんだけど、そこも寄っていい?」
「もちろんです。大野さんが行きたいところならどこでも」
ニコニコの笑顔でその台詞…
お前が女だったら、何人の男が騙されるんだろうな…
女じゃなくたって、騙されそうになって、何度も踏みとどまってる奴がここにいるのに。
あ~、マジでそろそろ限界かも…
ちょっとずつアピールしてるつもりでいるけど、一向に響いていないこいつを、どうすればいいんだろう。
こんだけ鈍感なやつ相手だと、はっきりと伝えるしかないのか…
「あ、大野さんあそこですか?喫茶店って」
櫻井の声で前方を見ると、以前はなかった店が…
レトロな雰囲気を漂わせる外装…わざとそうしてるんだろう。
「あぁ、多分そうだ。行ってみよう」
ドアを開けて中に入ると落ち着いた雰囲気の店内。
明かりも少しだけ落としてある…
「いらっしゃいませ、2名様でよろしいですか?」
カウンターの中から声が掛かる。
「はい」
「あれ?松岡さん?」
後ろから付いてきた櫻井が、驚いたような声をあげた。
「翔?なんでこんなとこに?」
「会社の先輩のお宅がこのご近所で、評判のいい喫茶店が出来たからって来たんです」
「へー、そうなんだ。久しぶりだな仕事頑張ってんのか?」
「はい、何とか。先輩が優しく指導してくださるので」
「そっか、なら良かった。バイト辞めてからどうしてんのか気になってたんだ」
「松岡さんはどうしてここに?」
「あ~、言ってなかったっけ?
俺、元々自分で喫茶店出すのが夢だったんだよ」
「そうだったんですか?知りませんでした」
「まぁ、立ち話もなんだから座れよ、カウンターでいいか?」
「あ、いいですか?大野さん?」
そう言われたら、カウンターに座るしか無いだろ。