第5章 rival
土曜日、駅で櫻井と待ち合わせした。
約束した時間よりだいぶ早い、が、今までの経験上仕方がない…
あいつをひとりで駅に立たせてると、100パーセントに近い確率で誰かに声を掛けられる。
でも、櫻井よりも先に待ち合わせ場所に立ってると、あいつに気を使わせるから
待ち合わせ場所が見える所に隠れて、櫻井が到着した2、3分後に出ていくということをしている。
無自覚な人間を好きになると苦労が絶えない…
櫻井が駅の前に姿を見せた。待ち合わせより15分早い。
これだって直させたんだ。
前はもっと早く来てて『仕事じゃないんだから、時間通りでいい』って言って聞かせた。
それでも15分前には来ちゃうんだから…
さて、そろそろ行くか…櫻井に近づいて行くと、櫻井が俺を見つけ、嬉しそうに微笑みながら駆け寄ってくる。
「おはようございます」
「お前は忠犬ハチ公か」
「え?」
「そんな走ってこなくてもいいだろ」
ほんとはその行動が可愛くて仕方ないんだけど、ニヤけてしまいそうな顔を引き締める為に、敢えてそんなことを言ってみた。
「あ、そうですね…大野さん見つけて嬉しくてつい…」
うっすらと頬を染める櫻井に、ノックアウト寸前の俺…
う~ん…なんでこいつはどんどん可愛くなっていくんだ?
俺が益々櫻井に惚れていってるから、そう見えるのか?
「じゃあ、行くか。」
緩んでしまう顔を隠すために振り返り歩き出した。
「はいっ」
櫻井も俺の横に並び歩き出した。
「この辺て来たことないの?」
「そうですね、特に用はなかったので来たことないです」
「まぁ、遊べるところがある訳じゃないしな…
でも住むには良いところだよ」
「生活すること考えれば遊ぶことより住みやすさ優先ですよね」