第5章 rival
「大野!櫻井くん!」
会社に向かって歩いていると後ろから呼ぶ声が聞こえ足を止めた。
振り返ると…やっぱりこいつか…
「行くぞ、櫻井」
前に向き直り歩き始めた。
「なんだよ、無視すんなよ~」
「おはようございます、岡田さん」
笑顔で挨拶する櫻井に、内心ため息を吐きたくなる…
そんな笑顔をこいつに見せんな…
「おはよ、櫻井くん。今日も可愛いね」
「ありがとうございます」
ほんとに…お礼とか言わなくていいから。
「櫻井、遅れるぞ」
「まだ、余裕あるだろ?なんなら大野だけ先に行ってていいよ」
そんなこと出来るわけ無いだろ!
仕方なく岡田と3人で歩き出した。
あー!俺と櫻井の貴重な時間を邪魔しやがって!
「櫻井くんそろそろさぁ、一度くらい、休みの日付き合ってくれても良くない?」
「あ~、えっと…」
「駄目だよ。櫻井、週末予定あるから」
「またそうやって…なんで大野が口出すんだよ」
岡田が拗ねた顔をした。
「あの岡田さん、今回は本当に予定があって…」
「え~、そうなの?
でも『今回は本当に』ってことは、今までは嘘だったんでしょ?
そんなに俺と出掛けるの嫌?」
櫻井はしまった、って顔をした。
「…いえ、嫌って訳では…」
「何か理由あるの?」
「あ、えと…」
言葉が見つからない櫻井。
そりゃそうだろ、俺が理由も言わずに『断れ』って言ったのを、忠実に守ってるだけなんだから…
「岡田、しつこい男は嫌われるぞ」
「そう簡単に諦められるか!
なかなかいないぞ?こんだけ見た目も中身も可愛い奴なんて」
そんなこと俺だって知ってるよ。
だから櫻井に近づこうとする奴を、必死に牽制してるんだろ。
そんなことを考えていたら、岡田が肩を組んできて耳元で囁く
「まだお前の物じゃないんだろ?だったら俺にも誘う権利あるよな?」
こいつ!
「櫻井が予定あるって言ってんだろ?」
「お前が断るように指示出してんじゃないの?」
うっ、バレてる…
「…本人に聞いてみろよ…」
そう言うと岡田は離れていき、櫻井に近づいた。
「櫻井くん正直に言ってね?大野に言われてるから断ってるの?」
「いいえ、大野さんに言われてるからではないですよ」
「ほんとに~?」
「ほんとです」
微笑む櫻井
「…はぁ、望みなしかぁ…」
岡田が残念そうに呟いた。