第5章 rival
ここ数ヵ月は、あれやこれやと理由をつけて、休日に櫻井のことを誘って外出してる。
それだって月2、3回が限度…ほんとは毎週末誘いたいけど、理由もなく誘えない。
元々の関係が、ただの会社の先輩後輩なんだから、一緒に過ごすこと自体難しい…あんまり誘いすぎて、パワハラなんて思われても嫌だし。
だからどんな些細な切っ掛けだって、見逃さない。
折角、家を見に来るんだから、ゆっくりしていってくれるといいんだけど…
「大野さんって、学生時代どんなバイトしてたんですか?」
「俺?色々やったよ。バイトなんて学生の時しか出来ないじゃん
コンビニ、ファミレス、スタンド、カテキョー、後は春休みに引越し屋、夏休みはライブイベントのスタッフとか」
「そんなに?」
「色んな職種見てみたくて、掛け持ちもしてたし」
「凄いですねぇ」
櫻井が目を見開いて驚いた。
「櫻井は?何かやってた?」
「俺はファミレスだけです」
「へぇ、俺はキッチンやってたけど、櫻井は?」
「俺もキッチン希望したんですけど、店長がホールに出てくれって」
「…だろうな…ホールにいるだけで売上げ上がりそう…」
ボソッと呟いた。
「え?なんですか?」
「いやなんでもない。でもホール大変だったんじゃないか?」
「混んでる時は大変ですけど、楽しかったですよ?
常連さんなんかもいて、良く話し掛けて貰ってましたし、中には食事に誘ってくださる方もいましたけど
それは店長に『断れ』って言われてたので、お断りしてました」
…やっぱりか…
でもその店長、バイトが食事に誘われたのに『断れ』なんて…
仕事終わればプライベートだろ?そこまで口出すかな…
「その店長どんな人?」
「俺とそんなに年が離れてなかったんですけど、仕事が出来るので店長を任されてたみたいです。
凄く良くして貰って…結局、他のバイトに移ることなく4年近く働き続けちゃって…
辞める時も『俺のとこに永久就職しろ』なんて言ってくれたんですけど、就職決まってたので丁重にお断りしました」
なんて笑顔で話すけどさぁ…それって、間違いなくプロポーズだよね?
はぁ~…こいつが鈍感で良かった…