第29章 可愛いアナタ
確かにそうだ。翔ちゃんの『大好き』が始まったのは葬儀の終わった翌日、目が覚めた時からだった。
それ以来、毎日のように翔ちゃんは俺に『大好き』を言っていてくれたのに俺は翔ちゃんに『大好き』を返してなかった。
「翔ちゃん、ごめんね…ずっと悲しい想いさせてた?」
翔ちゃんは俺の顔を見上げてキョトンとした。
「なんで?悲しい想いなんてしてないよ?」
「だって翔ちゃんはずっと大好きって言ってくれてたのに、俺一度も返してない」
「うん、でもずっと傍に居てくれたでしょ?あの日雅紀が言ってくれたんだよ?『ずっと一緒にいる』って。だから俺、それだけで十分だった。
それでもね、大好きって気持ちが抑えられなくて雅紀に言い続けちゃった。雅紀、相手にしてなかったし…嫌がる様子もなかったから言ってても大丈夫かな、って」
「嫌な訳ないじゃん、俺も翔ちゃんのこと大好きなのに。
翔ちゃんの『大好き』が聞きたくて毎日食後のスイーツ用意してたんだよ?」
「え?そうなの?」
「うん。『大好き』って抱きしめて貰いたくて用意してた」
「スイーツなんてなくてもいくらでもするのに…」
「じゃあして?」
翔ちゃんはニコッと笑って
「雅紀、だーい好きっ」
と言うと俺の首に腕を回しぎゅっと抱きついてきた。
「うん…俺も翔ちゃんのこと、だーい好きっ!」
俺は翔ちゃんの背中に腕を回すとぎゅっと抱きしめ返した。
「うっ…くる、しい…まさ、き…」
「あはははっ、ごめんごめん気持ちが入りすぎちゃった」
「もぉ、雅紀の馬鹿力…」
力を緩め顔を覗き込むとと少し剥れていた翔ちゃん。
「ごめんね、許して?」
「じゃあ、お詫びにキスちょうだい?」
子供がねだるような可愛い表情で大人の要求をしてきた。
俺は翔ちゃんの顎に手を添えると少し上を向かせ唇を重ねた。