第29章 可愛いアナタ
あの後、驚いた菊池に事情説明した。
怒るかと思ったのに『じゃあおふたりが上手くいったら俺のお手柄ですね』って言って笑って帰って行く菊池をふたりで玄関まで見送った。
リビングに戻り片付けをしようとしたら洋服を引っ張られる感覚。振り返ると翔ちゃんが俺の洋服の裾を掴んで不安そうに見つめてた。
「翔ちゃん?」
「…雅紀、俺のこと好き?」
あ、そっか…俺まだ翔ちゃんに好きって言ってないのか。
俺は翔ちゃんの正面に立ちそっと抱きしめた。
「うん、大好き」
翔ちゃんの腕が俺の背中に回った。
「よかった…俺ずっと雅紀のこと『大好き』って言ってたのに雅紀何も言ってくれないから、俺のことなんとも思ってないのかと思った」
「へ?」
翔ちゃんがいつも言ってた『大好き』は恋愛感情としての『大好き』だったの?てっきり家族としての『大好き』なんだとばかり思ってた。
「ごめんね、俺もずっと前から翔ちゃんのこと好きだったよ?でも翔ちゃんの言ってる『大好き』がそういう意味だと思ってなかった」
「そうだったの?俺てっきりいつも雅紀にかわされてるのかと思ってた」
「そんなことないよ。翔ちゃんが俺のことを大好きって言ってくれてるのは家族としてだと思ってたから」
「子供の頃はそうだった、弟が欲しくて雅紀を弟みたいに思ってた。
でも両親が亡くなったとき…俺、天涯孤独になっちゃった、って思ったら悲しくて…ひとりで泣きながら暗闇に落ちていく感じがしてた。
そんな時、部屋のドアが開いて光が射し込んだ。雅紀が『大丈夫だよ、ずっと一緒にいるから』って抱きしめながら言い続けてくれて…俺の心にも光が射し込んだんだ。
あの時から俺にとって雅紀は特別な人になった」