第29章 可愛いアナタ
「演技してるとかではないんですよね?」
「してないよ」
疑いたくもなるか、会社での翔ちゃんとは大違いだもんな。
「ん~、まぁいっか…もう少し見てればほんとのことわかるかな」
「なんだよほんとの事って?」
「だから、俺に諦めさせるためにおふたりが演技をしてるんじゃないかと」
俺も翔ちゃんも演技なんてしてない。でもこの姿を見て菊池が諦めてくれるなら助かるんだけど。
「ちなみに聞いていいですか?」
「なに?」
「おふたりの関係ってどこまで進んでます?」
「「はっ?」」
無心にご飯を食べていた翔ちゃんもさすがにこの質問には顔をあげた。
「まだ付き合い出したばかりなんですよね?でもさすがにキスぐらいはしてるでしょ、子供じゃないんだから」
「え…と…」
なんて答えればいいんだ?キスなんて勿論してないけど、恋人なら当たり前の行為だし…
でもここで『した』なんて言って会社で言いふらされても困る…かと言って『してない』と言えばそれはそれで疑われるよなぁ。
「大丈夫ですよ?今日ここで見聞きしたことは誰にも言いませんから」
「ほんとだな?」
翔ちゃんが菊池の事をじっと見て確認をした。
「本当です。俺が知りたいのはおふたりが本当に付き合ってるかどうかなんです。
ここで嘘つかれて事実がわからないと俺が今日来た意味なくなっちゃいますから」
真剣な表情の菊池。どうする…諦めさせる為にはやっぱ嘘でも『してる』って言うべきだよな…
そう判断して口を開こうとした瞬間
「…キスはしてるよ」
翔ちゃんが少し頬をピンクに染め答えた。嘘でも恥ずかしいんだな…可愛い。
「ふ~ん…なら見せて貰えます?おふたりのキスしてるとこ」
「ばっ!お前なに言ってんだよっ!」
そんなこと言われると思ってなくて俺が慌てて返すと
「キスぐらいいいでしょ?恋人なら出来ますよね?ふたりが本気のキス見せてくれたら俺、諦めますから」
「そんなこと出来るか!」
「いいよ…」
ポツリと翔ちゃんが呟いた。
「へ?翔ちゃん?」
「いいよ?それで菊池が納得してくれるなら」
俺は構わないけど、本当にいいの?翔ちゃん。