第29章 可愛いアナタ
「お待たせ」
翔ちゃんが着替え終えてリビングに戻ってきた。
「菊池、こっち座れよ」
「はい」
買い物袋を手にした菊池が翔ちゃんの案内でソファーに座った。
「ちょっと待っててな」
翔ちゃんはキッチンに来るといつものようにご飯と味噌汁をよそった。
「翔ちゃんもビール飲むでしょ?冷奴とカクテキもあるよ」
「カクテキ?やったね」
冷蔵庫を開け豆腐とカクテキを取り出した翔ちゃん。料理は出来ないけどこうやって手を加えないで済むものに関しては率先して動いてくれるんだよね。
小皿を出し豆腐を乗せると俺が切っておいたネギを豆腐に盛り付ける。カクテキも皿に盛り付けるとお盆に乗せよそっておいたご飯、味噌汁と一緒に運んで行く。
一度テーブルにそれらを並べてまた戻ってきた。
「あとどれ運ぶ?」
「あとはそこにあるポテトサラダとしょうが焼きだけだよ」
「オッケー」
翔ちゃんが俺の分のしょうが焼きまで運んでいったから俺はポテトサラダと取り皿を持ってふたりの待つテーブルに向かった。
「はい、お待たせ。それじゃ食べようか」
「うん。いただきます」
翔ちゃんが両手を合わせて頭を下げた。
その時菊池が少し驚いた表情を見せた。やっぱ驚くか…20代後半の男がする仕草じゃないよな。
そしていつものあの食べ方…頬っぺたイッパイに頬張って食べるのはやっぱ家だと出ちゃうんだ。
「どうした?菊池…」
固まったまま翔ちゃんがご飯を食べてる様子を見ている菊池に声を掛けた。
「…えっ?あ、いや、課長が凄く子供っぽく見えるんですけど、いつもこんな感じなんですか?」
「ん、そうだよ。これが家での翔ちゃんの姿」
「はぁ…そうなんですね…」
なんだろ、ちょっとガックリしてる感じ?俺的にはこんな可愛い翔ちゃん見たら菊池は益々翔ちゃんのこと好きになっちゃうと思ってたのに…だからできれば見せたくなかったんだよな。