第5章 rival
最近出社する為に、家を出る時間が早くなった。
今までの時間が遅かった訳じゃない。始業には充分間に合う時間だった。
それなのに、早く出るようになった理由は只ひとつ…あいつと同じ電車に乗るためだ。
電車の中にあいつの姿を見つけ、急いで乗り込んだ。
乗ってる車両は、いつも同じ場所だから探しやすいが、日によっては数本見送ることだってある。
今日はジャストタイミングだったようだ。
「おはようございます、大野さん」
そいつは俺の苦労など知らずに、可愛い笑顔で挨拶してくる。
「おはよう、櫻井」
俺も笑顔で挨拶した。
なんで俺がこんなことを始めたのか…それは櫻井が入社し、半年が経って、ひとりで営業を回り始めたからだ。
早い話が、一緒にいられる時間が短くなったから…
少しでも櫻井といたくて、同じ電車に乗って出勤するようになった。
朝の短い通勤時間でも会話をしたくて、毎日頑張ってんだ。
「大野さんって、入社したときから独り暮らしなんですよね?」
「ん、そうだよ。就職決まったときから独り暮らししようと思って、バイトしまくって、金貯めといた」
「ちゃんと考えてたんですね…」
「なに?どうしたの?」
「俺も、そろそろ実家出ようかと思ってるんです。
いつまでも実家暮らしってのも、どうかと思って…」
「へぇ、そうなんだ。どの辺に住みたいとか考えてるの?」
「いえ、まだ全然…どうせ引っ越すなら、今よりも会社に近いところに住みたいんですけど」
「そりゃそうだよな」
「大野さんが住んでる辺りって、住み心地どうですか?」
「いいよ。駅から少し歩くけど、家賃も手頃だし、近所にスーパーもコンビニもあるし」
「やっぱりお店とかはないと不便ですもんね。
間取りはどんな感じですか?」
「1LDK。ワンルームでもいいかなって思ったけど、客が来たりすること考えると、やっぱりベッドは別の部屋にあった方がいいなって」
「なるほど…参考になります」
「家、見に来てみる?」
「え?いいんですか?」
「いいよ。実際見た方が、参考にしやすいだろ?」
「はい、ありがとうございます」
笑顔で答える櫻井。