第29章 可愛いアナタ
そして翌日。夕食の準備をしていたら翔ちゃんが帰ってきた。
「ただいま」
あれ?いつもの可愛い声じゃない…何かあったのかな?
急いで玄関に迎えに出ると翔ちゃんの後ろから姿を見せたのは…
「菊池…」
「こんばんは、相葉さん。お邪魔させていただきます」
「なんでお前…」
「あれ?課長から聞いてませんか?相葉さんからも話を聞きたいって言っておいたんですけど」
「聞いてるよ?でも今日家に来るなんて聞いてない」
「外で出来る話じゃないでしょ?週末だからお邪魔するのに丁度いいかなって。それにふたり同時にお話し聞きたいな、と。別々で聞いたら後で口裏合わせしそうですし」
ニコッと笑ってそんなことを言う。完璧疑ってんな。
「口裏合わせなんてする必要ないよ。俺たち本当に付き合ってるんだから」
「まぁ、口だけならなんとでも言えますから。
ご自宅ならいつものように過ごせるでしょ?俺の存在は気にせずにおふたりは日々の生活を再現してくれればいいです。
俺はそれを見て課長の言ってることが正しいのか判断させて貰いますから」
菊池は何やら自信がありそうな物言いをする。見ただけでふたりの関係が本物かどうかわかるって言うのか?
どうしよう…翔ちゃんの事ならなんでも答える自信はあったけど、恋人同志の姿を演じる準備はしてなかったな…でもここで菊池を追い返したら絶対嘘だってバレるし。
仕方ない、こうなったらやってみるか翔ちゃんの恋人役。
「わかった、上がれよ…でも急に来たからお前のメシ何も用意してねぇぞ?」
「大丈夫です。ちゃんと差し入れ買ってきましたから」
菊池は手に持ったビニールの袋を掲げた。