第29章 可愛いアナタ
「菊池に何て言って断ったの?」
「何てって、そのまんまだよ?『ごめん、付き合えない』」
「それだけ?」
「それだけだけど駄目だった?」
少し不安そうな顔をする翔ちゃん。駄目ではないけど恋愛偏差値の高そうな菊池相手じゃ退いてはくれないだろうな。
「それだけだと菊池は納得しないだろうね」
「うん…全然してなかった…スッゴい笑顔でまた来ますって言われた」
オトす気満々だな菊池のヤツ…
「だったらさ『男とは付き合えない』とかってどう?」
「え~、そんな思ってもないこと言えないよ」
「えっ⁉翔ちゃん男の人と付き合えるの?」
「…大丈夫…勿論好きだったらの話だけど…
雅紀は駄目なの?男同士で付き合うのって許せない人?」
翔ちゃんが悲しそうな目で俺を見た。
イヤ、駄目なはずないじゃん…俺が好きなのは翔ちゃんだし…
翔ちゃんが男と付き合えるってわかってちょっと嬉しいかも。
多少なりとも俺にもチャンスあるかな?
なんて、今はそれどころじゃないか。
「俺もね、好きなら男同士だろうが女同士だろうが構わないと思ってるよ?」
そう言うと翔ちゃんはホッと息を吐き呟いた。
「よかった…」
「『よかった』って何が?」
「ん?あぁ、雅紀が偏見を持ってなくてよかったなって…」
「今時あまりいないんじゃない?」
「そっか…そうだよね」
「じゃあさ『好きな人がいる』ってのはどう?」
「ん~どうだろ?付き合ってる人がいるか聞かれたんだけど、いないって答えたんだよね…そしたら『付き合ってる人がいないなら問題ないです』って言われた」
強気だな…好きな人がいてもいなくても付き合ってる人さえいなければ関係ないってことか。