第29章 可愛いアナタ
「ご馳走さまでした」
また両手を合わせてペコッと頭を下げる翔ちゃん。食べ終わった食器を持って立ち上がった。俺も翔ちゃんに続いてキッチンへ入っていく。
翔ちゃんは流しの桶に食器を浸すと決まって冷蔵庫を開けるんだ。
「あっ、プリンがあるっ」
翔ちゃんの嬉しそうな声が背中越に聞こえた。この声が聞きたくていつも食後のスイーツ用意しちゃうんだよね。
「雅紀~、食べていい~?」
毎回必ず確認をする翔ちゃん。『聞かなくていいよ』って言ってあげればいいんだろうけど言ってあげないんだ。だって…
「食べていいよ」
食器を洗いながらそう言ってあげると翔ちゃんは俺の背中に抱きついてくるから。
「ありがと~雅紀、大好き」
家の中では『大好き』が連発する翔ちゃん、ほんとに子供みたいで可愛い。
「俺の分も出しといてくれる?洗い物終わったら行くから」
「うん、雅紀が来るの待ってるね」
食器棚からスプーンを出し、鼻歌混じりでリビングに戻って行く。
翔ちゃんのこんな姿を会社の奴等に話しても絶対信じないよな。
正直俺も驚いた…逆の意味でだけどね。
俺が知る翔ちゃんはしっかり者だけど可愛らしい印象の方が強かったから。
でも外だと全くの別人で、仕事はバリバリこなし上司からも部下からも信頼が厚い。
身のこなしも颯爽としてて『可愛い』より断然『格好いい』が合っている誰もが認める爽やかイケメン。
話を聞くと学生時代は生徒会役員なんかもやっていたから元々外では人の上に立つような人間なんだろうな。
翔ちゃんは叔父さんと叔母さんにメチャクチャ愛され可愛がられて育った。そんな翔ちゃんにとって『家』は甘えられる場所なんだ。
言ってみればこの家の中に居るときだけ出現するキャラ。でもきっとこっちが翔ちゃんの本当の姿…
その可愛い翔ちゃんを見られるのは、叔父さんと叔母さんがいなくなってしまった今、同じ家に住んでる俺だけの特権。