第29章 可愛いアナタ
着替えを済ませキッチンに入ってきた翔ちゃん。
「うわっ!うまそ~」
本気で喜ぶ翔ちゃんが可愛くて抱きしめたくなる衝動をなんとか抑える。
「冷めないうちに運んで食べよ?」
「うんっ」
翔ちゃんはふたり分の炒飯の皿を持ち、俺はトレーにスープとザーサイと缶ビールを乗せて運んだ。
リビングのローテーブルにそれらを並べソファーを背にふたり並んで座る。
ダイニングテーブルもあるんだけど夜はほぼこっちで食べるようになった。
毎日少しではあるけどアルコールを飲むし、仕事で疲れてるからこっちの方が楽なんだよね。
「いただきます」
翔ちゃんが手を合わせペコッと頭を下げる。
「どうぞ召し上がれ」
れんげを持ち炒飯を掬う。少し多目に掬った炒飯をひとくちで口に入れた。
頬っぺたをふくらませモグモグと咀嚼する姿もまた外では見せない姿。
会社の飲み会なんかではこんな食べ方しないんだ。
俺が入社してすぐの新人歓迎会のあと、その事について聞いてみた。
「なんでそんなに頬張って食べんの?外ではもっと落ち着いて食べてるじゃん」
「へ?俺そんな食べ方してる?ごめん、無意識…たぶん雅紀の作るご飯が美味しいからいっぱい食べたくなっちゃうんだよ」
そんなセリフをニコッと笑いながら言う…それを見た俺の心臓はドキンとなった。
『あ~ダメだ…俺、マジで翔ちゃんに惚れてるわ…』
あの時俺は自分の恋心を認めたんだ。
あれから4年か…俺もよく堪えてるよなぁ。