第4章 我輩は犬である
翌日は翔の仕事が休みで、いつもより遅く散歩に出掛けた。
いつもの場所を通りかかったとき
目の前を、道路の方に転がって行くボールと、それを追いかける子供が横切った。
子供が道路に飛び出した時、前から車が迫って来ていた…
「危ないッ!」
手綱を離して子供を追う翔。
俺はその翔の後を追った。
翔の体に体当たりした後、『ドンッ!』という衝撃を体に受けた。
「…さ、とし?」
翔の腕の中で泣き叫ぶ子供…
あぁ、良かった…ふたりとも無事だったんだ…
子供の親が騒ぎに気付き駆け寄ってきた。
「ママ~!」
子供が母親に抱きつくと、母親も子供を抱きしめた。
「すみません!」と何度も謝る母親…
翔は、俺を抱きあげ、ふらふらと歩き出した。
「さとし…すぐ病院連れていくからね、頑張って…」
ごめん…翔。
俺、またお前のこと泣かせちゃったな…
泣かせたくなんてないのに、いつだって笑っていてほしいのに…
あの時だって…
「さとし⁈やだっ!ひとりにしないでよっ!」
翔の泣き叫ぶ声を最後に聞いて、俺の意識はなくなった…
目が覚めると、白い天井が見えた。
右手に感じる温もり…
視線をやると、涙の跡が残る翔の寝顔が見えた。
あぁ…また泣かせちゃったな…
「…しょ、お…」
呼び掛けると、ピクッと体を動かし、ゆっくり瞼を開く翔…
俺と目が合うと、がばっと体を起こし、目を見開いた。
「さ、とし、くん…?」
「…ごめん、な…また、泣かせ、た…」
ふるふると首を振り、俺に抱きついてきた。
「智くんっ!智くんっ!」
泣き叫ぶ翔を、力の入らない腕で抱きしめた。
あの日、事故にあったあの時。今と同じように泣き叫んで、瀕死の俺を抱きしめる翔がいた。
こいつをひとりに出来ないと、俺はその場にいた犬の中に入りこんだんだ…
意識を取り戻した俺は、医者の診察や検査を受けた。
異常がないとの診断結果が出ると
後は落ちた体力が回復し、リハビリで体が動くようになれば退院できるとのことだった。