第4章 我輩は犬である
やっと病室に戻り、翔とふたりきりになれた。
翔と暮らした1年…
人間の記憶がない俺は、ありのままの翔を見てきた。、いつも笑顔で弱音なんて吐くことなく、眠ってるときだけみせる本音…
それは、俺に見せていた姿と一緒
俺の前ではいつも笑顔で、泣き顔なんて見せたことなくて…
でもほんとはわかっていたんだ。翔が寂しがってることは…
それでも俺にはどうしても果たさなきゃならない目標があって、その為に翔に我慢をさせてた。
やっと目標が達成して翔のところに戻ってきたのにその事を伝えられないまま事故にあった。
「翔、ごめんな…寂しい思いさせて」
「ううん、寂しくなんてなかったよ?あの時智くんが助けた犬がずっと一緒にいてくれたんだ。でも、ごめんね…智くんが命懸けで助けたのに俺のせいで死なせちゃった…」
翔の瞳に涙が浮かぶ…俺の前では泣いたことなんてなかったのに。翔にとっては大切な存在だったんだね。
「可哀想だけどさ、きっと俺の代わりに翔のこと守ってくれたんだよ」
そう言うと翔が驚いた顔をした。
「なんで知ってるの?俺のこと助けてくれたって…」
「翔のことならなんでも知ってるよ?ほんとは泣き虫だってことも」
「そんなことないよ…」
「翔…俺ね、帰ってきたのには理由があって…またすぐあっちへ戻るつもりでいたんだ」
翔の顔が少し曇った。
「そうだったんだ…」
「俺の荷物ってある?」
「うん、ちょっと待ってて」
翔が俺の鞄を持ってきてくれた。その中から小箱を取り出し翔に手渡す。
「何?これ」
「開けてみて」
箱を開けると翔の大きな瞳が更に大きくなった
「智くん、これって…」
箱の中には俺が作った2つのシルバーリング。
「翔、俺と結婚してくれませんか?」
「え?」
「俺が今回帰ってきた理由…お前にプロポーズする為なんだ。男同士で結婚が認められてる国で生活基盤が出来たらお前を迎えに来ようと思ってた」
「智くん…」
「返事貰えるかな?」
翔の瞳から涙が溢れた。
「…はい、喜んで…」
翔の涙を唇で掬った。
「やっぱり泣き虫」
「これは嬉し涙だからいいの」
これから先、翔が流す涙は嬉し涙だけであって欲しい…そう願いを込めて翔の薬指にリングを通した。
「ありがと…」
そう言って笑った翔の笑顔は今までで一番綺麗だった。
End