第4章 我輩は犬である
「ごめん、泣かせたい訳じゃないんだよ?
でもあいつのせいで、翔がいつも泣いてるから」
「…いつもじゃない」
「いつもだろ?
翔をほったらかしにして…海外に行ったときも、ずっと泣いてたじゃないか」
「あれは仕事だから…」
「それでも泣いていたことに変わりはない。
やっと帰ってきたと思えば、事故に合ってまた泣かされて。
今回の事故だって、犬を庇って自分が意識不明って…どんだけ翔のこと苦しめれば気が済むんだよ」
雅紀は悪い奴ではないらしい…
翔のことをすっごく心配してるんだ。
問題は『あいつ』だな。
恐らくこの部屋の中にある『物』たちの持ち主。
姿を現さないと思ったら、意識がないのか。
翔が毎日違う匂いをさせて帰ってくるのは、病院の消毒の匂い。
『あいつ』の所に行ってるんだ…
更に問題なのは『あいつ』が庇った『犬』…
たぶん、それが俺なんだろう…
『あいつ』を翔から奪ったのは俺なんだ…
ごめん、翔…
俺は翔の膝に頭を擦り付けた。
「…慰めてくれてるの?ありがと」
頭を撫でてくれる翔。
違う…礼なんて言われる筋合いじゃない…
俺はどうやって翔に謝罪すればいいんだろう…
「犬に慰めて貰うくらいなら、俺が慰めてやるよ」
雅紀が翔の腕を掴み、引き寄せ、抱きしめた。
「やめてっ、雅紀!」
翔は雅紀の腕の中で抵抗するが、雅紀は翔を離さない。
「俺の気持ちわかってるだろ?
お前があいつと出逢う前から、ずっと好きだったのに…
それでも翔が幸せになるのなら許せた…
でも、ずっと泣かされているお前を見てるのは辛い…もう限界だよ」
翔は抵抗を止めた…
「雅紀、ありがと。心配してくれて…
でも、ごめん。俺はあの人じゃないと駄目だから…
どんなに泣かされても、あの人以外好きにならない…」
翔がそう言うと、雅紀は翔の体を解放した。
「馬鹿だな…翔だったら、いくらでもいい相手見つかるのに…」
雅紀が微笑むと翔も微笑み返した。
「そうだね…雅紀のこと振るなんて勿体ないね…」
「いつでも俺のところに来いよ?」
そう言って雅紀は部屋を後にした。