第4章 我輩は犬である
朝の日課も決まっていて、6時に起きて俺を散歩に連れていってくれる。
翔との散歩は嬉しいのだけれど、一ヵ所だけあまり好きではない場所がある。
そこを通る時、翔が悲しい顔をするから…そんな顔をするくらいなら通らなければいいのに。
散歩から帰ると、翔はいつものように仕事に行く準備をして「いってきます」と言って笑顔で出掛けて行った。
あ~、暇だなぁ…早く翔が帰ってくればいいのに、と思いながら俺は眠りについた。
今夜も、いつもと同じ時間に翔が帰ってきた。
俺もいつものように翔を迎える。
翔が食事の準備をしていると、こんな時間に珍しくインターフォンがなった。
「はい」
翔が応答する
『翔、俺。話があるんだけど、入れてくれない?』
「わかった」
翔は玄関へ行きドアを開けた。
「どうしたの?雅紀、こんな時間に…」
「ごめんな、急に…」
「別にいいよ…あがって?」
『雅紀』と呼ばれた奴がソファに座った。
何故か俺は、そいつがそこに座るのが気に入らなかった。
「雅紀、ビールでいい?」
「うん、ありがと。ごめん、まだ食事終わってなかったんだね」
「あ、うん…」
翔が缶ビールを持ってソファに座わり、雅紀にビールを差し出すと真顔で受け取った。
「今日も病院行ってたんだ」
雅紀にそう聞かれ俯く翔。
病院?翔どこか悪いの?
「あの事故から1年だよ?
もう諦めなよ…翔がひとりで悲しんでるの見てられない」
「ごめん、雅紀…それは無理だよ」
「なんで?」
「だって、心臓が動いてるんだもん…まだちゃんと呼吸してるんだよ?」
「でも、目は覚まさないんだろ?」
雅紀がそう言うと、翔の瞳から涙が溢れた。