第17章 メガネの向こう側
翔さんはひとつ深呼吸をすると、再び口を開いた。
「墓参りに行くと、いつもあいつの言葉が聴こえて来るんだ…
『俺の為に笑え』って。最後にあいつが言った言葉が聴こえてくる…
でも、その日はいくら墓の前で拝んでも、その言葉が聴こえてこなかった…」
翔さんが目を伏せるとまた涙が溢れ出した。
「都合がいい考え方なのかもしれない…
でも、もう『俺の為に笑わなくていいよ』って言われた気がしたんだ。
だから謝った、心の中で何度も何度も…ごめん、ずっとお前だけ想い続けていくつもりだったのに、他に好きな人が出来た、って。
それでも最後の一歩が踏み出せなかった俺の背中を押してくれたのは、お前の絵だった…
あの絵を見て、お前と一緒に幸せな未来を見たいって思った…」
翔さんの頬を両手で包み、指で涙を拭ってあげると、翔さんは視線をあげた。
「翔さん…俺ずっと思ってたんだ…
その人が言った『俺の為に笑え』ってさ、俺『だけ』の為に笑えってことじゃないんじゃないかって…」
「どうゆうこと?」
翔さんは不思議そうな表情を浮かべる。
「その人きっと心配だったんだよ、翔さんのこと…
もし、自分がこのまま死んだら、翔さんはずっと泣き続けるんじゃないかって。
だからさ、『俺が死んでも俺が心配しないで済むように』…その為に笑ってくれって言ったんじゃないかな?」
「俺が心配だから…?」
「うん…だって俺も心配だもん。翔さん泣き虫だから、ひとりにしたらずっと泣いてるんじゃないかって」
「俺、泣き虫じゃないし…」
「なに言ってんの?ずーっと泣いてばっかりじゃん。
昨日も今日も目、真っ赤だよ?」
何か言いたそうな顔をするけど、言葉に詰まり視線を横に逸らした。
「…お前のせいじゃん…」
小さく呟くけど、全然言い訳になってないし。
「俺のせいだとしても、翔さんが泣き虫なことには変わりないでしょ?」
今度こそ返す言葉がないようで、黙り込んだ。