第17章 メガネの向こう側
「入って…」
翔さんがアパートの玄関を開けて、中に招き入れてくれる。
高校から歩いて15分ほどの所にある翔さんのアパート。
昨日、真っ赤に泣き腫らした目の翔さんをひとりに出来なくて、家まで送ってきた。
翔さんも、俺のことを好きだと認めてくれて、昨日はそれだけで満足して、翔さんを送り届けると、そのまま家に帰った。
だから、はじめて足を踏み入れる部屋…
少し緊張する。
「お邪魔します…」
部屋はワンルームしかなく、しかも殺風景と言っていいほど物がない…
あるのは、テーブルとベッドと本棚とテレビくらい。
「着替えたら珈琲淹れるから、適当に座ってて」
クローゼットから洋服を取り出すと、翔さんは部屋から出ていった。
俺はテーブルの置かれたラグの上に座る。
暫くして、翔さんがスーツから私服に着替え戻ってくると、眼鏡は外されていた。
「翔さん、眼鏡なくて不便じゃないの?」
キッチンで、珈琲を淹れる準備をしてる翔さんに、声を掛けた。
「え?あ~、あれ、度は入ってないから…俺、視力悪くないし」
「そうなの?じゃあほんとに、虫除けの為だけに掛けてたんだ」
「うん…」
珈琲のいい香りが部屋の中を漂った。
「お待たせ…」
テーブルの上に置かれた、ふたつのコーヒーカップ。
「ありがと、いい香りだね…
相葉ちゃんの入れてくれたインスタントとは大違いだ」
「そんなこと雅紀に聞かれたら怒られるぞ?」
「大丈夫、相葉ちゃん優しいから」
コーヒーカップを持ち一口啜る。
「うん、旨い」
「…雅紀はほんとに優しい奴だよ…
あの事故以降、ずっと俺のこと心配してくれてて…慰めてくれてた。
ありがたい存在だったよ…
でも、そんな雅紀にさえ、俺は冷たい態度を取り続けてた…心を閉ざしてしまっていたんだ」
翔さんは視線を落とし苦笑いした。