第17章 メガネの向こう側
あれ以来、櫻井が美術室に姿を見せることはなかった。
当然と言えば当然だよな…
「大野、コンクールの締め切り明後日だぞ?
終わりそうか?」
櫻井が来なくなったことで、俺が絵を描けなくなるんじゃないかと、相葉ちゃんは心配してくれたみたいだ。
ニノから、俺と櫻井の間に何があったのか聞いたみたいだしな。
それでも、毎日描きに来ている俺を見て、安心したのか、俺の邪魔をしないように、帰る頃になると様子を見に来てくれるようになった。
「おう、完成した…ちょっと見てもらっていい?
相葉ちゃんの感想が聞きたい」
今まで、誰にも見せないように描いてきた絵。
でも、俺が知ってる中で、唯一正解を知ってる相葉ちゃんに確認したかった。
相葉ちゃんは、俺の描いた絵を見ると、一瞬目を見開き、そのあと嬉しそうに笑った。
「懐かしいなぁ…」
「どう?あってる?」
「うん。俺の記憶の中の翔ちゃんだよ…
お前、実物見たのか?」
「いいや、まだ見てない。絶対見せて貰うけどな?」
「こんだけ頑張って描いたんだ。
ご褒美に見られるといいな?」
「でも、あの人ほんと頑固だよなぁ」
「ふふっ、昔から、変なとこ頑固だったよ。
でも、今は相当悩んでるぞ?
職員室でもボーッとしてること多いし。
早く何とかしてやれよ」
「わかってる…だからこの絵を描いたんだ」
「うん。翔ちゃんのこと頼んだぞ?」
「いいのかよ?教師がそんなこと言って」
「あと2週間もすれば卒業だろ?
教師も生徒も関係なくなる」
「まぁ、相葉ちゃん自身が元生徒に手出そうとしてるしな?」
「人聞きが悪いなぁ…俺から手出すわけじゃないからな?」
「わかってるよ。でも、あいつ泣かせるようなことしないでよ?」
「わかってる」
優しく微笑む相葉ちゃんを見て、ニノは幸せになれると確信した。