第17章 メガネの向こう側
「なんで…お前…」
櫻井の体が小さく震え出した。
「ごめん…相葉ちゃんに聞いてた。
2年前、事故で亡くなったんだろ?
それが原因で、先生笑わなくなったんだろ?」
櫻井の手が、俺の制服をぎゅっと掴んだ。
「笑わなくなったんじゃない…笑えなくなったんだ…
あいつは、俺に夢を見させてくれた」
「夢?」
「そう、夢…
はじめて同性を好きになって…親友として過ごしていた奴に恋愛感情持って、どうしたらいいかわからなくて悩んでた。
一緒に居るのが苦しくなって、気持ちを伝えて離れようとした。
それなのにあいつは、『お前のこと人として好きだし、離れたくないから、試しに付き合ってみてもいい?』って言って、俺を受け入れてくれた。
『もし、そういう目で見られなかったらごめん、その時は親友として付き合っていこう』って」
櫻井の元恋人は、櫻井っていう人間が好きだったんだ。
だから、櫻井が離れていくことよりも、自分が歩み寄ることを選んだ。
「最初はさ、あっちも変に意識して『恋人』っていう関係には中々なれなくて…
でも、いつも一緒にいてくれた。
それだけで幸せだったのに、あいつが誕生日にこの眼鏡プレゼントしてくれて…」
そう言って、俺から体を離すと、ポケットから眼鏡を取り出した。
「『悪い虫が付かないように掛けとけ』って、『お前の素顔見るのは俺だけでいい』って…
奇跡が起きたと思った…
ノーマルだったあいつが、俺のことを好きになってくれた…
ほんとに夢のような時間だったよ、あいつと過ごした時間は。
『大学卒業したら一緒に暮らそう』って言ってくれて…あの日、ふたりで暮らす部屋を探しに行く約束をしてて、待ち合わせの場所で待っていたんだ…そしたら…」