第17章 メガネの向こう側
それからの俺は、必死で櫻井を描いた。
絵を描き始めてから、ひとつき以上が経ち、2月に入ると3年生は自由登校になったが、俺は毎日学校に来て櫻井を描いていた。
モデルをしてくれてる30分を無駄にしたくなくて、黙々と描き続ける。
時計を見ると、約束の30分が過ぎていた。
その事を櫻井に告げようと櫻井を見ると、いつもの様に外を眺めてはなく、こちらを見ていて、俺と目が合うと慌てたように逸らされた。
「先生ありがと、時間だよ?」
そう伝えると、櫻井は急いで立ち上がった。
「あ、うん…じゃあ、また明日」
そのまま美術室を出て行こうとするから、俺は慌てて立ち上がり声を掛ける。
「先生、眼鏡!」
「え?」
「眼鏡掛けてから行って」
「あ、そっか…ありがと」
「ううん、お礼なんていらないよ。
俺が嫌だから、先生の素顔を皆に見られるの…
俺だけが知っていたいんだ」
そう言うと、櫻井は少し俯き呟いた。
「な、で…かなぁ…」
聞き取れない程の小さな声で、何かを呟いた。
「え?なんて言ったの?」
返事をくれない櫻井…
何を言ったのか知りたくて、櫻井の近くに行きもう一度訊ねる。
「何て言ったの?」
櫻井が顔をあげると、少し瞳が潤んでた。
「なんでそんなこと言うんだよ…」
「先生?」
「お前といると、あいつを思い出す…
あいつと同じような視線で俺を見るな…
あいつと同じようなことを俺に言うなよ!」
櫻井の表情が苦しそうにに歪んだ…
俺はその顔を見たくなくて、抱き寄せて櫻井の頭を俺の肩に押し付けた。
「『あいつ』って、先生の亡くなった恋人のこと?
相手の人、男の人だったんでしょ?」
俺が静かにそう聞くと、腕の中の櫻井がビクッと震えた。