第17章 メガネの向こう側
「…それは、出来ない…」
「なんで?この前言ったよね?
中途半端なことはしないって。引き受けたからには、最後まで付き合うって、言ってくれたよね?」
「言ったけど…それとこれとは話が違う」
「違わないよ?俺、この絵、本気で描きあげたいんだ…
でも、その眼鏡が邪魔なんだよ。肝心な表情を描ききれないんだ。
目指すものがある奴を応援してくれるんじゃないの?それとも口先だけだったの?」
櫻井は俺から視線を逸らせ少し考え込むと「はぁ~」と息を吐き、再び俺を見た。
「わかったよ…協力するよ」
そう言って眼鏡に手を掛けると、目を瞑り眼鏡を外した。
眼鏡を胸ポケットにしまうと、ゆっくりと瞼を開く…
はじめて見るレンズ越しではない櫻井の目は、大きくて澄んだ瞳をしていた。
「…綺麗」
思わず呟いてしまうほど、眼鏡をしていない櫻井の顔を綺麗だと思ってしまった。
「な、なに言ってんだよ…」
櫻井の声が聞こえ、ハッと意識を取り戻すと、顔を紅く染める櫻井が目に入った。
それで、自分が何を言ったのか気がついた。
「あっ!ほらっ!今まで眼鏡した顔しか見てなかったから!眼鏡外したら、思った通り綺麗な顔してたから、ついっ…ごめん、変なこと言って…」
そう言ったら、更に顔を紅くした櫻井。
「男が綺麗なわけないだろ…」
「綺麗な顔に、男とか女とか関係ないよ。綺麗なもんは綺麗なの」
「教師をからかうな…眼鏡掛けるぞ」
櫻井がポケットに手を持っていく。
「駄目!絶対駄目!そのままでいてっ!
からかってなんかいないからっ!」
櫻井の手が止まり、膝の上に置かれた。
「もうわかったから…早く描け。時間なくなるぞ?」
顔を紅くしたまま櫻井が視線を外に向けた。
照れてるその様子がとても可愛くて、新たな一面が発見できたことを嬉しく思った。