第17章 メガネの向こう側
櫻井の腕を掴んでる手に少し力が入った。
なんでこんなに緊張してんだ俺…
「どうした?何が知りたいんだ?」
いつもより近い距離…
声のトーンも優しくて、静かな空間に俺の心臓の音が響き渡るんじゃないかと思うくらいドキドキと鳴る。
「あ、の…俺、頭の中から離れない人がいて…
今までそんな経験したことないから、なんでこんなに気になるのかわからなくて…
今日もそうだけど、このままずっとこんな調子だと、何するにも身が入らないなって…」
櫻井が少し首を傾げた。
「昨日までは何ともなかったよな?」
櫻井に見つめられ視線を下に逸らした。
「え?あ、うん…実は、昨日からなんだけど…」
「なら、少し様子みてみたらどうだ?
まだ、今の状況じゃ、答えは見つからないと思うぞ?」
「答え?なんの?」
櫻井の顔を見あげた。
「だから、気になる相手が居るんだろ?
ただ何か引っ掛かることがあって、気になってるだけかも知れないし、もしかすると『恋』の可能性も無くはないだろ」
「恋⁉イヤっ!それは…」
「ないのか?」
俺が櫻井に恋してる?そんなこと……
「…わかんねぇ…」
「まぁ、焦ることはないだろ…
全ての事に身が入らないっていうのは困るが、それこそそんな状態が1週間も続くようなら、恋してるって言っていいんじゃないのか?」
「そうなのかな…」
「俺もそんなに恋愛経験がある訳じゃないからなんとも言えんが、好きな人がいると、自分でコントロール出来ないくらい頭の中を占領するからな」
櫻井の瞳が悲しそうに揺れた…
今でも櫻井の頭の中は、無くなった恋人が占領しているのだろうか…