第17章 メガネの向こう側
櫻井の元恋人が男…
「どうした?大野、手が止まってるようだが」
翌日も櫻井は美術室に来てモデルをしてくれてた…
今日は相葉ちゃんもニノも用があって、美術室には来ていない。
櫻井とふたりきりの空間で、俺は昨日の相葉ちゃんの話が頭の中から離れず、そのことばかりを考えてしまっていた。
「…すみません」
「いや謝ることはないが、何か他の事に気を取られてるようだから…
何かあったか?」
『何かあった』訳じゃないけど、あれから…というよりも、昨日櫻井と話してから、櫻井のことばかり頭に浮かんでくる…
本人を目の前にしても、考えるのは櫻井のことで、集中して絵に取り掛かれない。
「俺は絵には詳しくないからわからんが…
もし、毎日描かない方がいいなら遠慮せずに言ってくれ。その時は、俺もここには来ないから」
「いや!毎日の方がいい!毎日お願いします!」
咄嗟にそう叫んでいた。
櫻井の眼鏡の奥で軽く見開く瞳が見えた。
「そんなムキにならなくも大丈夫だから。
前にも言ったけど、引き受けたからにはちゃんと最後まで付き合うよ。
ただ毎日だと疲れるのかな、って思っただけだから」
「大丈夫…俺、絵描いてて疲れるとかないから…ちょっと考え事しちゃって、すみません…」
櫻井に向かって頭を下げた。
「考え事って学校のことか?
俺でいいなら話聞くけど?」
俺の頭の上から優しい声が聞こえる。
顔を上げると、櫻井が俺の前に立っていた。
「学校のことではないんだけど…」
「そっか、じゃあ俺では無理だな」
「待って!」
振り返り椅子に戻ろうとする櫻井の腕を掴んだ。
「どうした?」
「学校の事じゃないけど教えて欲しい…」
「俺で答えられることなら答えるけど?」