第17章 メガネの向こう側
30分しかないからな、急いで描かないと…神経を集中させ櫻井をじっと見つめた。櫻井は窓の外を見ているようだった。
「ねぇ翔ちゃん、眼鏡外してよ」
「やだ」
相葉ちゃんのお願いを即答で断った、優しさの欠片も無くないか?
「…まだ忘れられないの?」
そう聞かれた瞬間櫻井の頬がピクッと動いた…でもその問いに答えることはなかった。
「もう2年だよ?そろそろいいんじゃない?進み始めても」
「余計なこと話すなら帰るぞ」
「ごめん…でも今の翔ちゃん見てると…」
「…ありがと雅紀…でも俺のことはほっといてくれていいから」
「翔ちゃん…」
櫻井を見る相葉ちゃんの目が悲しそうで、2年前に櫻井に何かあったんだとは思ったけどこんな重い空気の中それを聞くことは出来なかった。
何があったのか気になりながらも俺は手を休めることなく絵を描き進めた。
相葉ちゃんが言っていたようにモデルとしてはいいモデルかも…バランスがいいと言うか今まで気にして見てなかったけど整った顔立ちをしている。いつもは眼鏡のせいで良く見えてない目も良く見ると大きく綺麗な目をしていた。『氷の女王』…あながち間違った表現じゃないかも。
「そろそろ時間だな、帰らせて貰うぞ」
「あ、うん、ありがと翔ちゃん」
立ち上がり歩み出す櫻井に俺は無意識に声を掛けた。
「あのっ櫻井先生!…またモデルやってくれませんか?」
櫻井は立ち止まると少し間を置いてから振り返り
「1日30分だけならな」
そう言ってまた歩を進めた。
「ありがとうございます!」
なぜ俺は櫻井にモデルを頼んだんだろう…たぶんもっと見たくなったんだ。
レンズの向こうに隠れた櫻井の瞳を…