第17章 メガネの向こう側
廊下からキュッキュッと足音が響いてきた。ニノの視線が教室の入り口に向けられた。
「相葉ちゃん、お疲れ」
ドアが開け放たれてる入り口に姿を見せた美術教師兼美術部顧問の相葉先生にニノが嬉しそうな笑顔で声を掛ける。
「何度言ったらわかるんだ二宮、相葉ちゃんじゃなくて相葉先生な?」
「ケチ臭いこと言うなよ、いいじゃん相葉ちゃんで」
「ケチとかの問題じゃないの、俺とお前は教師と生徒なんだから先生って呼ぶのは当たり前なんだよ」
そう言われたニノの瞳が一瞬悲しそうに揺れた。
「はいはい、わかったよ相葉ちゃんセンセ」
「お前、絶対わかってないだろ」
「…わかってないのはどっちだよ…」
ニノがボソっと呟いた…隣にいた俺には聞こえたけど、相葉先生には聞き取れなかっただろうな。
「で、どうだ?大野…コンクールに出す絵、何描くか決まったか?」
部活を引退した俺が美術室に来ている理由…美大に進学が決まった俺は受験勉強をする必要はなく、そんな俺に2か月後に開かれるコンクールに出展してみないかと相葉ちゃんが声を掛けてくれたから。
俺としてはこの先も絵の勉強をしていくわけだから断る理由はない…ただ何を描くか全く決まってはいなかった。
「まだ決まんねぇんだよなぁ…休みの日、カメラ持って出掛けたりするんだけど、これっていうのが見つからなくて」
「そっかぁ…でもそろそろ取り掛からないと間に合わなくなるぞ?」
「わかってはいるけどさ…」
でも興味が無いものを描いても上手く描ける気がしない。