第16章 sincerely
翔の誕生日を一週間後に控え、俺はニノの家にお邪魔することになった。翔には得意先にトラブルがあって暫く帰りが遅くなると伝えてある。
「悪いな、ニノ」
ニノの家にお邪魔する初日、俺は道具の入った袋を抱えて行った。
「結構な荷物だね」
「ん、ちょっと本格的にやりたかったから」
「へー、美術部とは聞いてたけどさ、まさか絵をプレゼントするなんてねぇ」
「だいぶ前だけど描いた絵見せてやるって言ったまま見せてなかったから」
「なるほど、翔ちゃんが言ったからか…智さんはほんとに翔ちゃんに甘いなぁ」
「うるせっ!相葉だってお前に甘過ぎるだろうが!」
「大きなお世話、ほら、早く始めないと終わらなくなるよ?」
誰のせいだ、ほんとこいつは…でも、マジでギリギリなんだよな…急いで準備し描きはじめた。
下絵は済んでる…前からデッサンしてたし旅行から帰ってきてからは翔が寝てる間に本格的に描き進めてた…でも色を染めるのは翔に隠れてするには無理があって、だからと言って俺が家に居るのに来るなとは言えないし、仕方なくニノに頼むしかなかった。
それでもこの絵をニノに見られたくなくて隅っこの方で隠す様に塗っていたのに、突然背後から声が聞こえた。
「うわっ!エッロい!」
吃驚して振り返るとそこにはじっと絵を見る相葉が立っていた。
「何でお前っ⁉」
「あ~、お帰り~」
「ただいま、和さん」
気の抜けたふたりのやり取り
「ただいま?」
「何かおかしいですか?帰ってきたら『ただいま』ですよね?」
「そうだけど、ニノ相葉が来るなんて言ってなかったよな?」
「うん言ってないよ、だっていつもの事だもん、わざわざ言わないでしょ?」
「いつもの事ってどういうことだ?」
「そのまんまですけど?俺、いつもここにいるんで」