第13章 おいしいひととき
「お待たせ潤くん」
マグカップを二つ手にした翔さんがいきなり目の前に現れた。
「うわっ!」
慌てて身を引いた俺。
「あ、ごめん…驚かせちゃった?」
「いや、こっちこそごめん、ちょっと考え事してたから翔さんが来たの気が付かなかった」
「何?考え事って?」
「いや、大した事じゃないから」
あなたの事を考えてました、なんて言ったら引かれるだろうなぁ。
翔さんがコーヒーをローテーブルに置き、俺の隣のスペースに座った。
今までだって距離的に近い事はあったけど、こうして隣り合わせに座るのは始めてで、ちょっとでも動くとお互いの振動が伝わってしまう。翔さんの僅かな動きに反応してドキドキする自分がいた。
この緊張から逃れたくて、早めにコーヒーを飲みほし掃除に取り掛かろうとした。
「ごちそうさま…翔さん俺掃除しちゃうね、洗濯物はない?」
「洗濯は午前中時間があったからやっちゃった、掃除だけお願いしていい?」
「もちろん、そのつもりで来たんだから…でも今日はあんまり散らかってないね」
「この前、潤くんが片付けてくれたから散らかすの申し訳ないなって思って、なるべく汚さないようにしてた」
「そっか、なら掃除機かけるくらいで済んじゃうか…早く来る必要なかったかな、反って翔さんには迷惑だったか」
「そんなことないよ!」
翔さんが大きな声で否定した。
「翔さん?」
そんなムキになって否定すると思わなかったからちょっと吃驚して翔さんを見ると一瞬目が合い、慌てたように目を逸らされた。
「あ、あの、迷惑なんて思ってないから…」