第12章 gift
ガチャ
「いらっしゃいませ…と、なんだ大野か…」
珈琲豆を挽いていた松岡さんが顔をあげてふっ、と笑った。
「なんだってなんですか…俺、客ですよ?」
「わりぃ、ってか今日は翔一緒じゃねぇの?とうとう愛想尽かされた?女性なんか連れて」
「尽かされませんよ」
「なんだ、残念」
「まだ言ってるんですか」
「そりゃなぁ、あいつ以上の人が見つかるまでは言い続けるさ」
「じゃあ暫くは言い続けててくださいよ」
「はっ、本人いない所でノロケてんなよ…今度は翔の前で言ってやれ」
「言ってますよ、ちゃんと言ってんのにいつまで経っても信用して貰えないんですけどね」
「そんな事ないです!ちゃんと信じてます、ただちょっと自信がないだけで…」
「それが信用ないって言ってるの、俺はお前じゃなきゃ駄目だって言ってるだろ?」
智さんが振り返って俺を見た。
「は?何?」
松岡さんがカウンターの中から出てきて俺の顔をまじまじと見る。
「…しょ、う?」
「…はい」
恥ずかしくて俯いてしまった。
「マジか…」
「ふふ、可愛いでしょ?」
「なんだよ、結局ノロケに来たんじゃねぇかよ」
「バレました?」
「まあいっか、いいもん見せて貰えたし」
笑顔で話すふたり、楽しそうなのはいいんだけど…
「なあ、写真撮っていい?」
「あ、俺も撮りたい!翔そこ立って、てか、松岡さん仕事いいんですか?」
「大丈夫だよ、今オーダー入ってないし…だから今の内に早く!」
ふたりで盛り上がっちゃって、このふたりいつの間にこんなに仲良くなったんだろ?
一通り撮影会(?)が終わりコーヒーをオーダーした。
カウンターの中から笑顔で俺を見つめる松岡さん。
「翔、今度は俺とデートしような?」
「そんなの駄目に決まってるじゃないですか」
「ははっ、やっぱ駄目か」
「駄目ですよ」
楽しそうに話すふたりを見ててなんだか嬉しくなった。
「さてそろそろ行くか、翔」
「はい」
立ち上がる智さんに続いて立ち上がった。
「松岡さん、代金ここに置いておきますね」
「あ、いいよ、今日誕生日なんだろ?ご馳走してやる」
「でも…」
「いいって、それよりいいもん見せて貰ったしな」
「んじゃ遠慮なく、ご馳走さまでした」
「翔、デート楽しんでこいよ」
「はい、ありがとうございます」