第2章 jealousy
会社に戻り廊下を歩いていると、前から手を振って歩いてくる人がいる。
「お疲れ~大野、櫻井くん。今帰り?」
営業2課の岡田さんだ。
「なんだ岡田か」
「なんだってなんだよ、そんな嫌そうな顔するなよ」
「お前といると、ろくな事がない」
「そんなこと言うなよ、同期だろ?仲良くしようよ」
「知るかっ」
大野さんと岡田さんは、仲が悪い訳ではないと思うんだけど、会うといつもこんなやり取りになる。
「冷たいなぁ…まぁ、大野はどうでもいいや」
そう言うと俺の方に向き直る
「櫻井くん、相変わらず可愛いねぇ」
「ありがとうございます」
ニコッと笑って返事を返す
これもいつものやり取り。
岡田さんは初めて会った時からずっと、会う度に俺の事を『可愛い』と言い続けてる。
最初はどう返していいのか分からなかったが、慣れというのは恐ろしいもので、最近は『ありがとうございます』と返事するようになった。
そんな俺を見て、岡田さんは満足したように笑って頷くんだけど…
男に可愛いなんて言って、なにがそんなに楽しいんだろう?
「用がないなら行くぞ?」
「あぁ、大野はいいよ。用があるのは櫻井くんだから」
「え?俺ですか?」
「…なんだよ、櫻井に用って?」
「仕事のことじゃないから大丈夫
プライベートのお誘いだから」
ニコニコ笑う岡田さんと、不機嫌そうに眉毛を寄せる大野さん。
「プライベートって何ですか?」
「櫻井くん映画好き?」
「えぇ、よく観ますけど」
「よかった。招待券貰ったんだけど今週の土曜日一緒に行かない?」
「駄目だよ。櫻井、その日予定あるから」
俺が答える前に大野さんが答えた。
俺、予定ないんだけど…なんで?
「ほんと?櫻井くん?」
「え?いや、えっと…」
どうしよう…大野さんが駄目だって言ったのに、俺がいいですって言ったらおかしいよな。
「…はい、すみません」
嘘をつく心苦しさで、岡田さんから視線を逸らした。
「ふ~ん、なるほどねぇ…今回は諦めるかぁ」
そう言うと、俺に向かって歩いてきた。
すれ違いざまに、肩に手を置かれる
「今度は大野がいない時に誘うね」
耳元で囁いて、『じゃあまた』と、手を振りながら立ち去った。