第9章 as it is
それなのにあいつはめげなかった。
「和さんって呼んでいいですか、俺の事は雅紀って呼んでください」
あいつは翌日も俺にそう言った。
最初はアホなのか?そう思った。なんで呼び方にこだわるんだ?
「もうわかったよ、いいよ名前で呼んで」
「やったぁ!ありがとうございます」
あいつの嬉しそうな顔を見たとき、ドキッとした。
あ~、こいつって人たらしなんだ。こいつが好かれる訳わかったわ。俺が特別なんじゃない…きっとこいつは誰に対してもこうなんだ。
営業先を回ってると女性社員に声を掛けられる事が増えてきた相葉。
それをイチイチ笑顔で相手するんだ。その光景を見てるのがなんだか段々イライラしてきた。
「雅紀行くぞ、次のアポに遅れる」
「あ、はい、すみません…それじゃあ失礼します」
相手の女性に爽やかな笑顔で挨拶する。
そんな笑顔見せるから相手が図に乗るんだ。
「お前なぁ、皆にいい顔してたらキリがないだろ?少し相手を選べよ」
「すみません、でも相手を選ぶって難しくないですか?」
「仕事の付き合いなんだから、メリットのある人とだけ上手くやれよ」
「え~、でもそれって寂しくないですか?もしかしたら凄くいい人かもしれないじゃないですか、そんな出会いをしてるのに気が付かなかったらもったいないですよ」
やっぱりこいつは俺とは真逆の考え方を持っている。俺は今まで人との出会いなんて考えた事もない。
生活してて自分に必要な人間とだけ付き合っていった。だから俺は友達と呼べる人間が少ない。
「だったら好きにしろよ、お前の交流関係まで俺が指導することじゃないもんな」