第8章 Lovers
「行くぞ」
翔の手を引き歩き出した。ふたりきりになれる場所を探して歩いてもこんな温泉街には無く、仕方なくやっと見つけたカラオケルームに入った。
部屋の明かりを抑え薄暗い中で翔を隣に座らせた。
翔の方に体を向け俯いたままの翔の両手を握った。
「…翔」
少しだけ顔を上げるけど視線は下を向いたままで
「なぁ、そんなに俺のこと信じられない?」
ゆっくりと首を横に振る翔…
「じゃあ、なんで?なんでそんな不安そうな顔してるの?」
「…俺よりも女性と付き合った方が智さんの為なのかなって…」
「どうして?」
「…男同士じゃ結婚出来ないし…子供も…」
俺は『はぁ~』っと、息を吐いた。
「そんなの最初から分かってたことじゃん」
「でも…」
「あのさ、それって翔が俺と居たくないって思ってるの?」
そう言うとやっと翔は俺の顔を見て勢いよく首を横に振った。
「違うっ!」
「翔は俺のことを気にしてくれてるだろうけどさ、逆に俺といることで翔も同じなんだよ?俺といても今の法律じゃ結婚出来ないし、子供も無理だよ?それでも俺でいい?」
翔はコクンと頷いた。
「俺は智さんと居られるだけでいいです…」
「だろ?俺も翔と居られるだけでいい…翔、先の事なんて誰にも分からないんだよ…いつ何が起こるかわからないならさ自分が思ったように生きていいんじゃないか?
子供がいても何年後かには親の元から離れて行くんだよ?結局残るのってパートナーだけならさ、俺は一番好きな人と最後の瞬間までいたいよ」
翔の瞳から涙が溢れ落ちた…
「…ごめんなさい…」
「なんで謝んだよ…お前はすぐ謝る」
翔の頬にそっと触れた。
「だって俺ほんとにめんどくさい奴ですよね…智さんに迷惑ばかり掛けてる…」
「確かに手は掛かるよ?でもそこを含めて翔だから…俺はお前に関することでめんどくさいなんて思ったことなんてないよ?それどころか可愛くてしかたない…あぁ、岡田のことだけはめんどくさいけどな?」
そう言って笑うと漸く翔の顔にも笑みが溢れた。