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SECRET NIGHT【八乙女楽】

第1章 雨の帰り道


席に座って、カフェオレにふぅーっと息を吹き掛ける。

ホットのドリンクを買ったものの、猫舌なあたし。

少し冷ましてから、カップに口を付けた。


外の天気は久しぶりに激しい雨が降っていて、窓ガラスに打ち付けていた。

そして、ふと窓の外の景色を見上げると、そこには雨に濡れた桜の木があった。

「せっかく満開なのに、もう少し楽しみたかったな…」

そういや、今年は忙しくて、花見もしてないや。

あたしは、いつの間にか、楽さんの機嫌のことなんて忘れて、桜のことで頭が一杯になってた。


『……おい!』

「…………。」

『……ふたば!!』

「えっ?楽さん!?」

『何回、呼ばせりゃ気が済むんだよ?』

「あ、ごめん。」


いつの間にか、あたしの隣には楽さんが座っていた。

うっかりしてたあたしに、楽さんは心配そうに口を開いた。


『なんか、あったのか?』

「なんかって?」

『オヤジが、、、いや、社長になんか言われたり、とか。』

あたしから視線をそらして、申し訳なさそうに呟く楽さん。

あたしは慌てて首を横振った。


「違う、違う!」

『ホントか?』

「うん!」

『ならいいけど、アイツになんか言われたら、すぐにオレに言えよ!』

「うん、ありがと。」

『アイツにオレとの関係がバレたら、ヤバイからな。』


うちの事務所の社長は楽さんのお父さんなのに…

楽さん曰く「アイツにとって、オレは商品でしかない」と言うんだ。

だから、商品であるオレに彼女がいたらマズイというわけで。

やっぱり、あたしは楽さんといるべきじゃないんじゃないかな…

ふと、そんな想いが脳裏をよぎる。


『なぁに、心配すんなって!』


なにも答えないあたしにそう言って、頭をポンポンッと叩いた。

その笑顔が、さっきまで機嫌の悪かった人とは思えなくて、つい笑ってしまった。


『なに、笑ってんだよ?』

「ううん、なんでもない。」

『変なヤツだな。』


そう言って、彼はコーヒーを飲んだ。


『で?何考えてたの?』

「あぁ、あれ見てたの。」

『ん?桜?』

「うん。」

『そういや、今年は花見、してねぇな。』

「うん。去年は事務所のみんなでやったよね?」

『あー、ふたばが酔って、オレに告ってきた日な?』


楽しそうに笑う楽さんだけど、違うしっ!
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