第1章 雨の帰り道
久しぶりに仕事が早く終わった。
会社を出たところで、あたしは彼にラビチャを送る。
ーー
お疲れ様です。
楽さんはまだ仕事中かな?
私は今日、珍しくもう仕事が終わりました。
これから帰るね。
ーー
心配性の彼は、こうして連絡しないと不機嫌になってしまうから、あたしは毎日、こうして連絡してる。
彼は「TRIGGERの八乙女楽」と言ったら、知らない人はいないほどのアイドル。
あたしはそんな彼の事務所の事務員として働いてるんだ。
ピンポン!
するとすぐに返信が届いた。
ーー
お疲れ。終わるの、早かったんだな?
ふたば、今、事務所の近くか?
オレも終わってるから、車で迎えに行く。
ーー
えっ?
そうなんだ?
でも、疲れてるのに申し訳ないな…
あたしはそう思って、楽さんに返信した。
ーー
大丈夫だよ、ひとりで帰れるから。
楽さんは疲れてるだろうし、先に休んでていいよ?
ーー
親切心のつもりだったんだけど、このメッセージで、彼の不機嫌スイッチを入れてしまったみたいだった。
ピンポン!
そう、すぐに返信がきたんだ。
ーー
ふたばは、オレの申し出を断るっつうの?
ーー
あー!
やっちゃった!
これは大変、ヤバイ展開になりそう。
あたしは慌てて返信した。
ーー
そうじゃないよ!
楽さんが大丈夫なら、迎えに来てもらえたら、嬉しいです!
ーー
すると、またすぐに返信が届いた。
ーー
じゃあ、いつものカフェで待ってろよ。
ーー
そのメッセージに、あたしは「OK」のスタンプだけ返信して、スマホを閉じた。
「はぁ…」
そして、これからどうやって彼の機嫌を直そうか、カフェに浸かって歩きながら、真剣に考え始めた。
きっと、めちゃめちゃ不機嫌だろうな。
だとしたら、何を話しても、しばらくは無視されるかも。
「はぁ……」
何度もため息が漏れる。
そして、なにもいいアイデアが出ないまま、あたしは待ち合わせのカフェに着いてしまった。
ーいらっしゃいませ。
「ホットのカフェオレください。」
ーはい。今日は寒いですよね。
「ホントに。冬に戻っちゃいましたよね。」
このカフェは、いつも楽さんとの待ち合わせで使うから、店員さんとも仲良くなっちゃった。
そして、あたしはカフェオレを手に、窓の外が見えるいつもの席に座った。