第1章 序章
最近になって知ったことだが、私には姉がいた。
今から十年前、私の姉は行方不明になった。叔母夫婦の養子として育てられた姉は、本家にいた私とはほとんど会わなかったらしい。
年も離れていた為に、私には姉の記憶はない。
だから姉妹とは言っても、他人も同然の関係だ。
そんな姉が、十年前、この町で失踪した。
原因は分からない。家出か、迷子かと、皆は噂していたようだ。
だが、本家と、叔母夫婦は違った。
ある事実を、双方の家族は確信を持って考えていた。
姉は誘拐されたのだ。
そう考えた根拠は知らない。私は、その時まだ五歳にもなっていなかったし、何より、家の事には興味が沸かなかった。
ただ、両親と叔母夫婦は、顔を合わせる度に深刻な顔で話し合っていたのは覚えている。
姉は、それきり、二度と帰ってくることはなかった。