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世界が目覚める時、

第1章 序章


__それで、着いたの?
「うん、大丈夫。」
__そう、それじゃあ、気を付けてね。
「はい、ありがとう、お母さん。」
言い終わる前に切った相手に、私は最後の言葉を言った。
通話ボタンを消し、スマホをポケットに入れる。
ずり落ちたバッグを直し、前を向く。
「さて。」
私は一人、呟いて、無人の駅を出た。
ここは、私の叔母さん夫婦が住んでいた町。
緑の豊かさと、海の匂いが漂う町は、都会生まれの私には新鮮だ。
今日から私は、この町に住み、この町の小学校に通う。
感慨深く思っていると、前に通っていた学校の事を考えそうになる。慌てて頭を振り、顔を上げた。
そして、叔母さんの家に向かって歩き出した。


私は、公立小学校に通う、ごく普通の小学生だ。
つい先日まで、私は京都の中心部に住んでいたのだが、ある事情でこの田舎にやってきた。
家庭の事情ではない。それは私自身の問題だ。
私がその問題から逃れるべくには、今まで住んでいた土地を離れねばならなかった。
私が抱えていた問題は、私のみの事ではあったが、それほどまでに重大なことだった。
元の家を私が離れることに、両親は難色を示したが、親類の家に住む、という条件で、承諾を得ることに成功したのだった。
だから、私は今日から一人暮らしだ。
この町に住んでいる叔母夫婦は、数年前に仕事で海外に行ってしまった。
今は誰も居ないその家に、私が住むことになったのだ。




この辺かな。
私は地図を見ながら、家を探し歩いていた。
それにしても、この町は本当に何もないなぁ。
通る道にあるのは、林か家のどちらかだ。家も密集しているところは殆どない。
この町には、店どころかコンビニもあるかないかだろう。
絵に描いたような田舎におおのきながらも、私の心には好奇心が沸いてきた。
この地で、私はこれから生活していくんだ。そう思うと自然と心が躍る。
だが私は、心の片隅でこう思ってもいた。
この地で、私の姉は消えたのかと。


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