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世界が目覚める時、

第1章 序章


老人はそんな私を見て、薄く笑みを浮かべると、
「それはそれは、困った事だねぇ。こんな所で一人は寂しいでしょう。」
ところでお嬢さん、と老人は言った。
「寂しいなら、わしと共に行かんか?」
言って老人は私の腕を掴んだ。老人とは思えないほどの力で握り締められる。
「!?何するんですか!?止めてください!」
急いで腕を引き抜こうとした。しかし、老人は私の腕を離そうとしない。にやにやと笑いながら私を見続けている。
ぞっとした。老人の後ろに、人のようなものが見えたから。
「止めて!放してよ!」
だが尚も老人は放すことなく、私の腕を掴みながら、何事か呟き続けていた。
神の御身への貢。神の御身への貢と。
私の腕は人間離れした圧力に堪えきれず、感覚が無くなっていた。
老人の呪文のような言葉を聞いているうちに、私の意識は遠ざかり始めていた。
こと切れそうな意識の中、私は、闇の中に一筋の光を見た気がした。
ああ、もしかしたら、お姉さんも、こんな気持ちだったのかな・・・
私を覗き込んでいる老人の顔を見て、私は目を閉じようとした。
その時、
__どこかで、鈴の音が鳴った。
瞬時、風が凪いで、私の前髪を揺らした。
何が起こったか分からず、私は目をぎゅっと閉じた。
しばらく、沈黙の時間があった。私はそっと目を開けた。
そこには、誰もいなかった。
私の腕を掴んだ老人の、影も形もなく、まるで最初からいなかったかのような静けさだけが、そこにあった。
私は何も言わずに突っ立っていたが、我に返ると逃げるように走った。
「・・・・・・・。」
その後ろ姿を、見ているものがいるとも知らずに。
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