第9章 帰還
その後、エマと他愛もない話をした後「便所だ」と言って屋上を後にした。
正直、彼女に会えて良かった。先程まで不気味に感じられた廊下も、不思議とこういうものか。と受け入れられた。
もう屋上に戻る理由もない。
リヴァイは自室へ戻ると、自分のベッドへと近づき……その脇で足を止めた。視線は二段ベッドの上段に釘付けになる。
そこには、下半身を失ったファーランが横たわっていたのだ。
その姿は、最後に見たあの時のまま。
だらんと投げ出された手は血で染まり、瞳孔の開いた瞳はこちらに向けられている。下半身を失った断面からは内蔵が顔を出し、月明かりに照らされ生々しく輝いている。
まだ……自分はおかしいのだろうか。
『持って行かれちゃダメだよ』
エマの声がする
『なんでも聞くから、傍に来て』
仮に彼女の元へ行ったとして、何を吐き出すというのか?
一体、自分は何に追われているのか?
ファーランを目の前に考える。
……そうか
俺は……
愚かな自分に追われているのだ。
「……おい、借りるぞ」
リヴァイは空っぽのベッドへ声をかけると、ファーランと自分の毛布を手に取り、再び部屋を後にした。