第9章 帰還
屋上の扉を開けると、彼女はまだそこに居た。
塀のふちにもたれかかるようにして、空を見上げている。特に声を掛ける事もなく近づくと、やがてエマは驚いたようにこちらを見た。
「……もう、来ないかと思った」
はにかむように笑う彼女に、自分の毛布を頭からバサッと被せる。
「うわっ!」と驚いたような声と共に、視界を奪う毛布を取ろうと彼女は手を動かす。
リヴァイはその手を掴んで動きを制すと、そのまま彼女に問いかける。
「お前はさっき……持っていかれる前に話せと言ったな?」
「え?……うん……言った」
「なら……このまま、聞いてもらえるか?」
「……分かった」
毛布の中から、彼女の声がした。
繋がれた右手が、ぎゅっと握り返される。
「……俺には、迷いがあった」
口をついて出たのは、自分の弱さ。
「お前と倉庫で話した時。壁外で……あの古城で皆の視線を感じた時。確かに迷いを感じた。だが、それに気づかないフリをした」
まるで懺悔にも似た、情けない話だ。
「そして……くだらねぇ事にこだわって。あいつ等を死なせてしまった」
頭に浮かぶのは、あいつ等と過ごした日々。
こんな自分を慕い、いつも傍にいてくれた。
一緒に泣いて、笑って、夢を語って。
ずっと一人だった俺にとって、あいつ等は初めて心を許せる存在だった。