第8章 現実
顔を打つ雨を感じながらしばらく走ると、一か所やけに煙がかった場所を発見した。
霧とは違うそれは、巨人を討伐した時に発生する水蒸気で間違いない。しかし、疑問なのはその量があまりにも多い、という事。
誰かが闘ってる?
そう考えた時、エルヴィンが何かを叫んだ。激しい雨音で何を言っているのか聞き取れない。
彼は進行方向を変えると蒸気の中へ姿を消した。
「ちょっと!エルヴィン!?」
単騎行動は危険だ。エマは右手を大きく挙げ、班員にエルヴィンの後を追う旨を伝える。
そして……蒸気の先で見た光景に息を飲んだ。
モウモウと蒸気をあげる無数の巨人。
雨と血が混ざり、赤く染まった地表。
無残に散らばる遺体の一部からは、内容物がこぼれ出している。
むせ返るような巨人、そして人の死臭の中に彼は居た。
エルヴィンが傍へ寄り、馬上から声を掛けている。これはリヴァイが無事で良かったと喜ぶべきか、それとも……
エマの考えはそこで止まった。
リヴァイがブレードを振りぬき、エルヴィンの乗った馬の前脚を切断したのだ。バランスを崩したエルヴィンが地面に放り出される。
「あいつ!!」
「待ちなさい!!」
殺気立つ班員を慌てて制す。
リヴァイは膝を着くエルヴィンの首筋に刃を突き付けている。彼の表情はこちらから見る事は出来ないが、エルヴィンの表情にはまだ余裕が見えた。