第8章 現実
しばらくすると、少しだけ雨の勢いが衰え僅かに視界が開けた。エマが後方を確認すると、20メートル程後ろに他の班と思われる影。
更に速度を緩め近づくと、そこにはエルヴィンの姿があった。
「申し訳ありません。信煙弾が使用出来ませんので、合流させて頂きました」
「問題ない、良い判断だ」
その場で一旦止まり、今後の動きについて手短に話し合いが行われた。
部隊の立て直しを図るには、まだしばらく続きそうなこの雨の中、一度全員を集めなくてはならない。それには荷馬車に積んである音響弾が必要だった。
「では…後退しながら荷馬車を探す。ということですか?」
「あぁ、そうなるな」
とはいえ索敵陣形は広く展開されている。その為、団長・エルヴィンがそれぞれ班を率い、左右二か所に基点をつくる事となった。
「エマ、よろしく頼むよ」
エルヴィンが団長の元を離れ、エマの班に付く形となる。あちらの班が少々手薄にはなるが、ミケがいるので何とかなるだろう。
「よろしくお願いします」
止まっていた時間と部隊が進んでいるであろう距離を考慮し、進行方向を決めた。
仮に部隊からはぐれてしまった場合、各班自力で補給地点まで辿り着かなければならない。
そんなリスクは背負わせたくないし、背負いたくもない。流行る気持ちを抑えながら、慎重に馬を走らせた。