第8章 現実
その後。索敵陣形を展開してから4時間余りが過ぎ、部隊はかなりの距離を移動していた。その間、巨人を避ける為に14回の進路変更を行ったが、全て成功。
このまま、順調にテスト初日を終えるだろう…
誰もがそう感じ始めた頃、エマは前方上空に黒々とした雨雲を捕らえた。
「これは……」
この土地は1年を通して、比較的雨が少ない。これほど急速に成長する雨雲を見るのは初めてだった。周囲はとたんに暗くなり、雷鳴が轟く。
「信煙弾を濡らさないように!雨が来るよ!!」
そう叫んだ直後、凄まじい豪雨が辺り一面に降り注いだ。
それと同時に、急激な気温低下によって発生した霧が視界を奪う。
10メートル先すらも霞んで見える。
数分前までとは打って変わり、状況は最悪だった。
「班長!どうしますか!?」
班員が怒鳴るような声で指示を仰いで来た。どう対処するのが適切か、エマは必死で思考を巡らす。
この陣形は索敵を重視したものであり、戦闘には不向きだ。信煙弾が使用出来ない今、エルヴィンならどのような判断するだろうか……
「後方の班と合流します!速度を緩めて!!」
その声がその場の全員に届いたのかは分からないが、エマが急激に速度を緩めると、それに準じて皆速度を落とした。
きっと、エルヴィンならば一旦陣形を閉じる筈だ。