第8章 現実
翌日、部隊は夜明け前に補給基地を後にした。
地平に朝日が差し込むと同時に、エルヴィンの号令。そして陣形展開の開始を意味する信煙弾が空に放たれた。
エマは馬を加速させ、半円状に広がった部隊の先頭に立つ。
後方を見ると、エルヴィンと団長の班が小さく確認できる。平原、とはいっても多少の起伏はある為。なだらかな斜面を登った後、斜面を下るときには後方の班は見えない。
「……結構離れますね」
「そうだね、とりあえず隣の班と並走することを重視しよう。前方はもちろんだけど、スピードが出過ぎて孤立しないよう、後方にも注意して」
これまでの隊列で移動する方法であれば、常に仲間が傍におり『孤立』というリスクを負う場面は少なかった。しかし、この索敵陣形ではそうはいかない。
全方向に神経を張り巡らす。
「左後方に緑の信煙弾を確認!打ちます!」
振り返ると、空には右に向かっていくつもの放物線が描かれていた。壁内でも実践したが……やはり壁外で大きく陣形を展開した状態で見ると、その機能性の高さを感じずにはいられない。
「凄い……」