第2章 出会い
地下街とはいえ、自身の恰好は特異なものだろう。
見て見ぬふりも出来ただろうに、そうはせず声を掛けてくれた。しかし今、エマにはそれに答える術を持ち合わせていない。
正直、助けてもらえるのならば助けて欲しい。だが見知らぬ人にそう易々と頼っても良いのだろうか。
今の状況を作ってしまった自身の行動が思い起こされる。
どう立ち振る舞うべきか。
エマが考えあぐねている間、男は視線を逸らすことなくその様子を見つめていた。
「おいッ!居たか⁉」
その第三者の声は突然、まだ遠いがはっきりと聞こえた。
反射的にエマの体がこわばる。
路地を利用し、だいぶ距離を離したつもりだったのだが、追っ手もかなりしつこいようだ。
エマはまだ完全に整わない呼吸を噛み殺し、足に力を入れ立ち上がった。
しかし、すぐに歪な石畳に足をとられ、前のめりに体制を崩してしまう。
鈍い音と共に、石畳に全身を預けるように倒れ込んだ。今日何度目だろうか、思わず情けない声が漏れた。
「チッ、めんどくせぇ」
見るに見かねたのか。佇んでいた男性はエマの両脇を抱え立たせると、自身の外套を脱ぎはじめた。
「距離を取りながら、俺の後をついて来い。奴らとすれ違っても動揺するな」
そう言いながらエマに自身の外套を着せると、手際よく口元の布を解いた。
「手錠は後だ、行くぞ」
少し乱暴にフードを被せると、男性はスタスタと歩き出した。
エマは驚き、ただ呆然とその男性の行動を見ていた。
ふと下を向き自身の姿を確認すると、外套が普段使用している物より随分長いことに気が付いた。
これならば追っ手が見ても分からない…
かもしれない。
「距離を取りながら、ついてこい」
ボソッと彼の言葉を繰り返すと、エマはゆっくりと歩き出した。