第2章 出会い
「はぁッ…はぁッ…」
エマは地下街の入り組んだ路地を駆けていく。
辺りは薄暗く人気もない。
地下へ来るのは初めてだ。
どこへ向かえば良いのか、そんなことは分からない。とにかく今は少しでも遠くへ..
「ッ!…ガハッ…グッ」
突き当りの角を曲がろうとした瞬間。
バランスを崩し、石畳に激しく身体を打ち付けた。
普段のエマならば、この程度の距離を走っても肩で息をすることはないし、曲がり角で転ぶこともない。
しかし今は状況が悪い。口は布できつく縛られ、両手は背中に回され手錠をかけられている。
エマは身体をよじり起き上がると、路地の壁に背を預け座り込んだ。
乱れた呼吸を整えようと息を吸うが、口元の布が邪魔をして上手く空気を取り込めない。
なんて情けないのだろう…
エマは自分自身に失笑した。
こんなにも惨めな思いをしたのは随分と久しぶりだ。
酸欠で霞む視界の中、エマは天を仰いだ。
真っ暗な世界に、天井の採光口から僅かに光がさしている。
目を閉じれば、眉間にシワを寄せた上官の顔が容易に想像出来た。
きっと彼のことだから、怒鳴るのではなく冷静に諭すのだろう。
その静かな迫力がまた凄いのだけれど..
とにかく。あのシワがより深くならない内に、なんとか地上へ上がらなければ。
「おい。」
突然頭上から声を掛けられ、エマはハッと息を飲んだ。
辺りに人気は無かったはずだ。
ゆっくりと声の方へ顔を向けると、目の前には外套を羽織った人物が佇んでいた。
フードを深く被っており、顔を伺うがうことは出来ない。
しかし、声から察するに性別は男性だ。
「お前…これはどういう状況だ。」