第8章 現実
「……持ち物の節約を重視しろと?」
被害を目視で確認していたエマは、前方から飛んできた声に顔を上げた
。
先程までの巨人討伐に歓喜していたファーラン、イザベルの声はどこへやら。リヴァイとエルヴィンが何やら言い合っている。
立ち止まり話が終わるのを待つ事にするが、その意に反しエルヴィンはすぐに踵を返しこちらへやってきた。
「話はもういいの?」
「あぁ、少しアドバイスさせてもらっただけだ」
抑揚のない言葉とは裏腹に、彼は笑みをみせる。
「……私の班を負傷者に回しました。今後の指示をお願いします」
「お前の班は、このままフラゴンと共に最後尾に付け。私と団長は前衛まで戻る」
「了解しました」
そんな短いやりとりの後、最初に目に付いたのはリヴァイ達を睨み続ける1人の新兵。彼の名前は……
「サイラム!何ボーっとしてんの!」
「……エマさん」
「さっさと負傷者に付きなさい。早くしないと本隊に置いていかれるよ!」
「はい。すみません」
サイラムは俯き、拳に力を入れた。
エマは、そんな彼の頭をポンポンと軽く撫でる。
新兵の多いフラゴンの隊に、巨人が当たってしまったのは不幸な事だった。
「何かあるなら補給地で何でも聞くよ。とにかく今は動く!殆どが貴方の同期でしょう?」
『いけ!』と言うように、サイラムの背中をグッと押し出した。